絶望世界にて鮮やかに紡がれる、終焉と再生のフルボイスノベルアドベンチャー!
ラスモス・ゾティーラ・トゥーラッカ!
「アーキタイプ・アーカディア」とは、終末世界とフルダイブ型オンラインゲームを舞台に描かれるケムコADVである。「一緒に行きましょう逝きましょう生きましょう」、「最悪なる災厄人間に捧ぐ」など鬱ゲーに定評のある「ウォーターフェニックス」の作品。
さささぐは前回感想書いてるのでよかったらそちらもどうぞ。
gogo7ji.hateblo.jp
さささぐも含めウォーターフェニックスといえば「二人だけの物語」というのか、メインキャラ二人の関係性に特化したアクの強い作品に定評のあるとこという印象があるんだけど、今作は登場人物がたくさんいてそれぞれの思惑で行動する作品となっている。
だから最初はどうなるかなーって感じだったんだけど、協力、団結、裏切り、立場や主張の違いからくる対立など、キャラがたくさんいるからこそ効果的に描ける予測できない物語が描かれ、最後の最後まで面白さたっぷりの作品となっていた。いやー杞憂でしたね!
発症すると他傷行為にはしり最後には自殺してしまう病、「原罪病(ペカトマニア)」が蔓延し、文明が崩壊した後の世界。主人公「ルスト」とその妹「クリスティン」は、生き残った人間を探し、トレーラーハウスで終末世界を旅していた。
原罪病の進行を食い止める唯一の手段は、フルダイブ型オンラインゲーム「アーキタイプ・アーカディア」にログインすること。クリスティンは定期的にログインを行っていたが、ある日、ログインから目覚めなくなってしまう。
ルストは妹を救うため、自分も「アーキタイプ・アーカディア」にログインすることを決意する。
「アーキタイプ・アーカディア」内は自動翻訳機能に対応!他言語話者とも気兼ねなく会話できるという神サービスである。めちゃくちゃ羨ましい!
「アーキタイプ・アーカディア」内は現実と見紛うほどリアルだが、現実にはない独自のルールが存在する。
まず「記憶がカード化される」ということ。プレイヤーの持つ強い記憶がカードとして手に入り、他人に譲渡することもできる。
次に「記憶カードは壊れる」ということ。プレイヤーが一定量のダメージを受けると、「レッドアウト」と呼ばれる行動不能状態となり、レッドアウト中は無防備であり記憶カードを破壊されてしまうことがある。記憶カードが壊れると、対応する記憶を失ってしまう。他人に譲渡した場合も対応する記憶を失う。
記憶カードを全て破壊されるとゲームオーバー。現実の肉体は「シカバネ」と呼ばれる原罪病の末期症状となり、意思疎通は不可能となる。つまり命懸けのゲームである。
そして「記憶を"アバター"として召喚できる」ということ。アバターはプレイヤーの記憶が元になっていて個性は様々。例えばルストのアバター「ティーン」は妹のクリスティンが元になっていて、一緒に石で遊んだ記憶から投石攻撃のアバターとなっている。
アバターはプレイヤーの命令で戦わせることができ、プレイヤーはアバターの攻撃以外ではダメージを受けない。つまり、「アーキタイプ・アーカディア」における他プレイヤーとの戦闘はアバターを通して行われる。ポケモンバトルとかスタンドバトルをイメージするとわかりやすいかも。本体攻撃可のポケスペスタイル!
独自のルール下で展開されるバトル描写が今作の大きな魅力となっている。
アバターの強さは、プレイヤーとの「共感率」によって上下する。例えばルストのアバター「ティーン」は、「一緒に遊んで楽しい」という記憶が元になっているので、楽しいという気持ちに共感すればするほど強くなる。
ちなみに共感率の上げ方は人によって向き不向きがあり、主人公のルストくんは「感情型」の上げ方をするタイプで、共感率を急激に上昇させやすい反面、急激に下がりやすい。またライバルキャラのアレグロくんは「分析型」の上げ方をするタイプで、地道だが確実に共感率を上げていく。
記憶に共感し戦うのが「アーキタイプ・アーカディア」の基本だ。しかし、記憶に浸りすぎて依存し現実の自分を忘れてしまうと、プレイヤーとアバターは融合し「モンスター」化してしまう。
モンスターはプレイヤーでもありアバターでもあるという特殊な状態で、プレイヤーに直接攻撃することが可能。能力的にも強化される他、自分を忘れている存在故まともに意思の疎通をすることもできないという厄介な存在である。
ラスモス・ゾティーラ・トゥーラッカ!
「アーキタイプ・アーカディア」内には集落が点在している他、他プレイヤーを殺害する危険ギルド「神々の使徒(通称狂信者)」、神々の使徒に恨みを持つ者たちが集まったギルド「日輪騎士団」など様々なギルドが存在している。
クリスティンが主催する「遊びギルド」はその名の通りみんなで遊ぶ楽しいギルドである。挨拶は「ラスモス・ゾティーラ・トゥーラッカ」!この挨拶だけでも覚えて帰ってくださいねー(漫才師風に)。
この作品は苛烈で凄惨な展開の連続ではあるんだけど、本質としては生きること、遊ぶこと、人間の営みを肯定的に描いた人間賛歌という面があり、遊びギルドはその象徴のようなところがあるね。
騙し、裏切り、貶め、殺す。人間の本質は悪であるとしても、むしろそういう人間の汚い部分も描く作品だからこそ、逆説的に生命の素晴らしさ、生きる喜びが表現されているともいえる。なんだろう、性善説よりも性悪説のほうが人間存在への確かな許容を感じるんだよね。
ハーレムとは…。
僕の好きなキャラは「コロネちゃん」と「アレグロ」がツートップかな。(コロネちゃんはね…、ずるいですよいろいろ。声優もさささぐのクロ役の小鳥遊ゆめさんだし!)
アレグロは(その名前の通りに)早急なゲームクリアを目指すプレイヤーで、強力な技「終焉の炎」を使いこなす。主人公であるルストといろんな意味で対になっているキャラクターであり、ある意味もう一人の主人公である。
ルストとアレグロは偽善と偽悪であり、理想と現実であり、秩序と混沌であり…。相容れないからこそ分かりあおうとするルストと、大義の為突き進むアレグロの関係性は何か象徴的だなぁ。
アレグロは悪を嫌悪していながらも自分は善人になれない、悪を為さねばならないという強迫観念に取り憑かれている自己嫌悪的自己矛盾的自己消滅願望的人間であり、破滅するまで止まれない暴走機関車のような存在である。
しかし作中世界の滅びに突き進む人類の状態を考えれば彼の主張も強ち間違ってはいないんだよな。甘すぎるルストくんがいるからこそアレグロが映える、アレグロがいるからこそルストの底抜けの優しさが映えるという。この作品を真に魅力的にしているのはアレグロの存在だと思う。
ENDはBADなやつが20種類とTRUEなやつが6種類。TRUEはラストの6択で分岐ね。複雑な分岐はそんなにないからEND回収はかなり楽。
ただBAD ENDは簡素というかすぐ終わっちゃうものが多くそんなに見応えがないのは惜しい。ルストがアレグロに同調するENDとかシチュエーション的に面白そうなものもちょいちょいあったから残念だ。
人類の終焉と再生を描く壮大なADV!手を取り合い、遊び、生きる、「人間」という存在への賛歌を強く感じたね。能力バトル的な描写も熱くて、世界のルールを少しずつ理解していったり修行で強くなったりと少年漫画っぽい雰囲気もあって良い。
ストーリー的には、アルティアお姉ちゃんがちょっと便利すぎない?というのは少し思ったけど、まあほぼ文句なしに面白い。なんというか、敵になったり味方になったりはするけど、登場人物みんな曲げようとしない信念、信条がそれぞれにあって、そこから生じる展開に違和感やブレがないんだよな。キャラクターが誰一人かけても成立しない作品だと思うし、全員に寄り添い生かそうとするルストくんの姿勢も青いけど非常によかった。
ウォーターフェニックスといえば鬱展開、という印象があるけど、今作ではそこまできつくない印象。(ないとは言ってない!)最初のケムコADVにも良い作品かもしれないですね。
人類は緩やかに滅びに向かっていくのかもしれないけど、それでも未来に何かを残していけるのかもしれない、と感じられた作品だった。全人類遊んでください。ラスモス・ゾティーラ・トゥーラッカ!
3980円、プレイ時間約60時間
プレイした日2021/10/21~2022/04/04
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