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遊んだゲームの感想なんかを書き残していこうかと思っています

「最悪なる災厄人間に捧ぐ」紹介

なつ派。

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最悪なる災厄人間に捧ぐ(さささぐ)とは、限りなく透明で残酷な災厄世界系ノベルADVである。

徹底して主人公とヒロインの二人だけの世界の描写に特化した作品であり、アクは強いが非常に純愛的、ボーイミーツガール的作品といえる。また滅びと再生を繰り返す謎多き世界でありながら、むしろ二人の関係性を重視して描き続けるという点ではセカイ系作品の系譜でもある。

 

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ヒロイン、6歳の「クロ」は「透明人間」であり、他の動物には認識されないと同時に、動物及び動物の死骸に接触することができない。

主人公、8歳の「豹馬」は「透明人間しか視ることのできない人間」であり、「透明人間」以外の動物の声や姿を認識することができない。(自分自身の姿すら視認できない。)

出会うべくして出会った二人は奇妙な共同生活を始めるが…。というストーリー。8歳と6歳の豹馬とクロが、18歳と16歳になるまでの10年間の物語である。

豹馬には他人の声が聞こえないから、クロに翻訳してもらう。豹馬には他人の姿も見えないから、クロに教えてもらってぶつからないようにするといった具合でクロに協力してもらいながら豹馬は生活する。

クロの声や姿は豹馬以外には認識できないから、二人が共同生活していることは誰にも知られていない。豹馬の両親も家にもう一人の住人がいることに気付いていないのだ。

この豹馬とクロ、二人だけの空虚な世界の描写が見事で、例えばこの作品には「豹馬」と「クロ」以外の名前は徹底して出てこない。出てきてもAさん、Bさん、同級生など。声もなければグラフィックも登場しないので、プレイヤーは豹馬くんと完全に同じ体験をするというわけね。何度でも滅び続ける空虚な世界で、平穏に生きられる道を探す二人だけの物語、それが「さささぐ」なんですね。

 

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そしてこのゲーム、ヒロインが、分裂、する。

 

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最初の出会いの場面で、豹馬はクロにソフトクリームを与える。この選択から世界は五つの平行世界に分岐するのだ。

とうふソフトクリームを与えられた「ふー」、きな粉ソフトクリームの「キナ」、味噌ソフトクリームの「みー」、納豆ソフトクリームの「なつ」、豆乳ソフトクリームの「にゅー」。

平行世界の五人のクロは出発点では完全に同一人物なんだけど、五者五様の成長を見せてくれる。ふーは優しいみんなのリーダー。キナは勉強が好きで委員長タイプ。みーは運動が好きで強くなりたいと願っている。なつは遊び好きのいたずらっ子。にゅーはのんびり屋の癒し系、とそれぞれ育っていく。

五人のクロは別々に育つけど、元々もっていた性格の表出した部分が違うだけでやっぱり同一人物でもある。一人のクロに表出している性格も全てのクロが本質として持っているがために、クロ同士の会話は本質的には自分自身との対話みたいな要素が強い。自分だからこそ許せない、自分だからこそ気持ちがわかる。五人のクロはときに喧嘩しぶつかりあいながらも自分を見つめなおし、成長していく。

そしてクロ役の声優、小鳥遊ゆめさんの演技が本当にすごい。五人が少しずつ個性を獲得していく様子をしっかり演じているのが見事だし、五人の演じ分けもしっかりなされている。それでいて同一人物であることがちゃんとわかるという絶妙の演技で、これだけでも買って聴いてみる価値があると僕は思う。上で述べた通りこの作品はクロ以外の声はほぼ出ないので、殆どの場面は小鳥遊ゆめさんの一人芝居なんだけど、それを引っ張ってくだけのパワーがある。

ちなみに豹馬くんも五人いるけど全員クロ大好き人間だよ。

 

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僕が一番好きなのは納豆ソフトのなつかな。自由で、遊びといたずらと納豆と、そして何よりも豹馬が好きで、でも自分のことが誰よりも嫌いな女の子。告白のシーンがほんとに悲しすぎてもうだめだった。

 

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震えるぞハート!

 

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クロの前に現れた扉から、クロのみは他世界へ訪れることができる。ただし他世界のものに干渉することはできず声も出せないので基本的にはスケッチブックを持ち込んで筆談をする形になる。

五人いるから五倍強いとはならないのだ。

牙を剝く残酷な世界に対して二人はどこまでも無力だ。

 

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豹馬に、クロに、災厄が襲い掛かる。世界は滅びと再生を繰り返し、何度でも二人を絶望に陥れる。しかし世界の法則は少しずつ判明していく。多大なる代償をもって。

 

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鮮血ビューティフォーってなんだよ。

 

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別世界のクロが基本世界に来訪し、豹馬に協力してくれることがある。命をかけてでも。いろんな遍歴を辿ったクロが来訪するので、それを集めるのもちょっとした楽しみかな。集めれば集めるほど心がつらくなってくる収集要素ってなかなかない。

 

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マンボウ!(名シーンです)

 

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うまそう。

さささぐのコラボカフェがあったら納豆ご飯に味噌汁と豆腐、飲み物は豆乳でデザートにきな粉餅のさささぐ定食を出してほしい。

 

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プレイヤーの心を粉々に打ち砕く鬱ゲー。二人を取り巻く世界はどこまでも残酷だけれど、しかし紡がれる二人の心のふれあいは見ていて暖かい気持ちになれる。最後には大切なものがちょっぴりだけ残るような、切なくて、でも希望のある良い作品だった。

豹馬とクロ、二人の物語を是非見守ってほしい。おすすめ。

 

3056円、プレイ時間35時間

プレイした日2019/09/12~2019/10/06

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