十九時十分をお知らせいたします

遊んだゲームの感想なんかを書き残していこうかと思っています

「シロナガス島への帰還」紹介

―私は帰還する あの忌まわしきシロナガス島へ―

 

THIS

WORLD

IS

NOT

REAL

 

「シロナガス島への帰還」とは、過去に抗い世界を否定する、古典にして異端のミステリーアドベンチャーゲームである。

不穏渦巻く絶海の孤島「シロナガス島」で起こる奇怪な殺人事件に探偵「池田戦」らが立ち向かう様子を描く。基本的にはオーソドックスなノベルゲーである。ただし覚悟をもって身構えよ。

今回やったのはSwitch版ね。フルボイスだぜ!

 

ブルックリンで探偵業を営んでいる主人公「池田戦」。職業柄様々なツテと知識と経験を持つタフガイである。ただし主人公なので声なしだ!ボイスドラマみようね。

目的の為ならダーティな手段も行使するタイプで、腕は立つけど悪評も立つ男。その類稀なフィジカルと精神力、判断力で修羅場を潜り抜けていく。ラッキースケベ体質。

 

ヒロインの「出雲崎ねね子」は、完全記憶能力を持つ天才マルチリンガルスーパーハッカー超絶コミュ障毒舌ちょっと臭ポンコツガリガリもやし少女で、その優れた能力でもって池田を強力にサポートする。属性がピーキーすぎる。ドサイドンかよ。あと腋毛。

ただやはり運動能力は壊滅的で、猫に狙われた障子紙のようにか弱い。イレギュラーの事態にも弱い傾向があり、その点実戦特化の超絶アナログ人間である池田とは互いを補い合うベストパートナーである。

井口裕香氏のボイスは正にはまり役。ゲロに奇声に大暴れで大活躍だ。

 

今回の(といってもこれが一作目ですが)事件は、池田がとある大富豪からの依頼を受けるところから始まる。

ヒギンズ家当主自殺の謎と、遺書に残されたキーワード。東の果てか、それとも西の果てか。アリューシャン列島に連なる謎多き島「シロナガス島」という手掛かりを得た池田は、ヒギンズ家の婿養子「太郎ヒギンズ」として身分を偽り、「シロナガス島」で催される秘密会議に出席することとなる…。

 

シロナガス島は外界から隔絶された所謂クローズドサークル。イリーガルな事案であることが濃厚、身分も偽っていることから、バレたら命の保証はない。

それでもなんだかんだついていけてるねね子はすごい。ゲロ吐いてたけど。

 

ただ、他の会議参加者も事情を把握しきれていない代理出席者が多い模様。内訳もお医者さんやお金持ちのお嬢さん、アル中など様々で、一見して関連性は見られない。

 

島内の宿泊施設「ルイ・アソシエ」へと招集された面々。島内で噂される不気味な「シロナガス島の悪魔」の伝説。

「血か?それとも肉か?」館の主が未だ姿を見せない中、神なき地で殺戮者は咆哮する…。

これこれ、これなのよ。ステーキ頼んだらステーキが出てきたのよ。肉だよ。

 

聞き取りは調査の基本。真相に辿り着くために、情報は多ければ多いほど良いのだ。この辺のパートは地に足ついた感じで好きですね。レール進行で聞き逃しとかもないので安心。

 

情報をまとめて推理するパートも池田がわかりやすく図を書いてくれるのが親切で良い。

トリックに使ってくれと言わんばかりの建造物にはちょっと笑っちゃうけど、時刻、天候、人間の心理等当時の状況を照らし合わせた上で無理なく解けるようないい感じの仕上がり。

それでいてプレイヤーの心理を把握した上でちょっと外してくる感じ…踊らされながらも理屈には納得できちゃう作りが腹立たしくも実に心地よい。お気に入りは文字化けメールのとこ。

 

あとやっぱり面白いのが犯人当ての場面。自分自身も容疑者に入れてるのが頭おかしくて、でも可能性を全部潰すその姿勢がすごく好きだ。外したときの差分も、(結局はおんなじようなBADに収束するとはいえ)ねね子の毒舌が相まって楽しいものになっている。要セーブ。

 

たまに出てくる制限時間以内になんとかしろ系のやつは正直ちょっと微妙かな…。焦るじゃん!だって!(これは好みですが…)フルボイス化の弊害だと思うんだけど、しっかりボイスを聞いてたら普通に時間足りなくなる。いや飛ばせば余裕をもって間に合うんだけども、じっくり作品をしゃぶり尽くそうという姿勢が損にしかならないのは個人的にどうも納得しかねるところではある…。

シチュとしては普通に面白く、異常な状況下においても図太く迅速に立ち回る池田の精神面肉体面双方の人外っぷりが垣間見え、制限時間によってそれがより強調されているという面はある。ただ、センサー盛り盛りの解体シーンは流石に理不尽だった。ジョイコン感覚でセンサーを盛るな。

 

また制限時間で言えば、急いで選ぶタイプの選択肢がなんかバグってる…。(恐らくSwitch版のみ…?)アプデで直ったんじゃないのかよ!

状況としては前回出た選択肢がまた出てるって感じですね…。押したら止まる。正規の選択肢は機能してたんで一応進行は可能。

 

それはそれとして…。作品の骨子たるシナリオ面は、荒々しくも芯の芯がしっかりしている印象。静と動、柔と剛を兼ね備えている。

複雑な利害関係の上に構築されるひと時の安寧、しかしそれは台風の中心の静寂の如く、ひとたび崩れれば大きなうねりに飲み込まれ全ては掻き消える。メキシカンスタンドオフみたいな絶望的な状況下で、命ある限り考え、闘い、抗い、夜明けを駆け抜けていくカタルシスというのが確かにそこにはある。

母胎に回帰するが如く、忌まわしきシロナガス島に引き寄せられ縛り付けられる者たち。それは正しく「呪い」だし、呪いを解くには手順が必要だ。その手段において、痛みが伴うことは必定でしかないのだ。

ただホラー的な文脈もあり途中「ジャンル変わった?」てくらいブシュブシュグチャグチャお肉デローンだったり、かと思えば急にフィジカル勝負になったりと所謂「反則技」は使いまくっている感がある。ただそれらは迸るリビドーの表出であり、自由であり、魂とか寿命とかいったものを削り取って出力された何かということは疑うべくもなく、そういった「やりたいこと全部やる」的な熱量でもって捻じ伏せる剛の拳である。そういうごった煮的なものをしなやかなストロークでもって一作品に昇華している様は鮮やかという他ない。

 

とはいえ暗―いシリアス一辺倒の話では決してない。ポンコツヒロインのねね子がいるのでむしろ口当たりは軽くてすいすい読めてしまう(グロ死体が出ないとは言ってない)。…池田も池田で定期的に大ボケをかます、フィジカルが両津勘吉、無駄に風呂を覗く等奇行に事欠かない。

ねね子の物語構成上のウエイトというのは非常に大きく、コメディリリーフでありながらサービスシーンもこなし、完全記憶能力保持者であることから必要な場面で必要な情報がすらすら出てくることに全くの違和感を生まず、それでいて本体はか弱い少女であるために屈強な池田では不可能なシチュエーションにも抜擢可能であるなど、唯一無二にして必要不可欠のマスターピースである。「動いてるだけで面白い」はもうキャラクターとして完全勝利なのでは。或いはただの性癖かですね。どっちかです。

 

また、クリア後は事件の数か月後を舞台にしたエクストラシナリオが楽しめる。うーん、やっぱり性癖なんじゃねぇかな…。

 

リゾートに招待された一行!沈没する船!飛び交うゲロ!

経験豊富な池田を頼りに無人島でサバイバル生活を行う一行だったが、それは恐怖の怪談ナイトの序章に過ぎなかった…。というストーリー。どういうストーリー?

エクストラシナリオ最大の特徴は選択肢次第で全然違う話になっちゃうところ。選択が過去にも遡及して影響し全くもってパラレルな時空の電波シナリオが展開される。昔のサウンドノベルっぽい。

正規ルートを外れるとどいつもこいつもガンガン死んだり行方不明になったりするので流石に突っ込みたくなる。せっかく本編の地獄を生き抜いたのにこんなギャグ話で死ぬんじゃないよ。

とはいえ話自体はしっかり面白く特にCV小林ゆうの怪談の語りは必聴。でもなんでシロナガスでやったんだよこの話をよ!でもいい電波を拾った。今日はいい天気だ。

 

「原液」って感じがする作品。道を踏み外したあの日の感覚をきっと味わえると思います。通は薄めずに飲みます。おすすめ。

 

750円、プレイ時間約20時間

プレイした日2023/07/16~2023/07/22

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