善も悪もなく、ただ悲劇に向かって突き進んでいく人々を、僕は見ていることしかできなかった。
「返校 -Detention-」とは1960年代、白色テロ下の台湾を舞台としたホラーアドベンチャーゲームである。グロ描写があるので注意。
冥銭、神杯占い、黒白無常等、台湾独特の文化、風習、宗教を感じられるタイトルであり、その辺も上手く演出に取り入れられている。
「このゲームはフィクションです」の表記からしてもうわくわくもん。一貫して雰囲気作りの上手いゲームだ。
高校生の「ウェイ」は誰もいない教室で目を覚ます。学校の中を彷徨うウェイは上級生の「レイ」を発見する。二人は帰宅しようと試みるが…。というストーリー。序盤はウェイ君が主人公だけどそれ以降はレイちゃんの視点で話が進む。前半においては舞台はほぼ夜の学校で統一されており、いやーな雰囲気の学校の中を彷徨い歩くことになる。
オーソドックスな2Dアドベンチャーゲームであり、学校に点在する謎を解きながら進んでいく。霊に遭遇することもあり、息を止めてやり過ごす必要もある。
ゲームにおける安息の地といえばセーブポイント…。なんだけど、こんなに落ち着かないセーブポイント初めてだよ!
前半は湿った雰囲気を纏いつつもまだよくあるホラーで済ませられるが、この作品はある場面を境にホラーであることを止める。「レイ」の心の在り方、人と人との関係性に描写がシフトしていく。この描写がどこまでも濃密で、精神的なグロテスクさを孕んでいる。「怖さ」よりもただひたすらに悲しく救われない物語が待っている。
ホラー作品というのは人間の根源的な感情としての恐怖を煽るものであって、そういう意味では返校は、特に後半は現実と地続きにあって、失われてしまった青春や過去にずっと囚われてしまった人の心へ描写がシフトしていくから、厳密に言えばホラーではないのかもしれない。プレイしていて、怖いというよりはただひたすらに悲しみが心を支配していた。ホラーという形式を借りて、人と人との関係性、すれ違いから起こる悲劇、そして残される虚しさ、侘しさを描いた物語であったように思う。
なんか怖いのが出てギャー!という作品ではないので、そういうのを求めると「なんか違うな…。」ってなると思うけど、遊んだ人の心になんか生々しい傷を残していく作品だと思うし、暗く重く鮮烈に感情を揺さぶってくる作品だと感じる。
僕はこのブログを見てくれる人が好きだ。だからこの作品をおすすめしたい。
好きな人を打ちひしがれさせたいという暗い心理、好奇心があるからだ。
地獄の底を覗き込んでみたい人は是非。人の心の在り方にこそ地獄は潜んでいる。
1296円、プレイ時間約5時間
プレイした日2018/05/12~2018/05/19