十九時十分をお知らせいたします

遊んだゲームの感想なんかを書き残していこうかと思っています

「デイグラシアの羅針盤」紹介

これは正解のないノベルゲーム。

 

f:id:gogo7ji:20220305195742p:plain

「デイグラシアの羅針盤」とは、同人サークル「カタリスト」が制作したノベルゲームである。僕は未プレイなのでなんともいえないけど「Ever17」の影響が強い作品らしい。

非常に癖の強い、悪く言えばくどい文体の作品で、最初はどうにも目が滑って読みにくいし面白さもわからなくて、「校長先生の長い話」のゲーム化か?みたいな感想になったんだけど、読み終えてみれば、多数のテーマを取り扱いながらもそれらを綺麗に世界観にパッケージしている良い作品だと思えたし、衒学趣味的にも思える奇妙な文体にもだんだん愛着が湧いてきたから不思議な作品だ。

ただ話の進みの遅さは本当に深刻で、例えば「ディスプレイを眺めるとでっかいイカが移ってました」という程度の情報を得るのに30クリックくらい要するので特に序盤はほんとにつらい。くどさも極まってて、例えば柊乃先生がキシリトールタブレットを取り出したときは絶対「キシリトールタブレットを取り出した」って描写するからなこのゲーム!30回くらいは見ることになるぞ!

そういう話の進みの遅さ、取っつきの悪さに起因して人を選ぶ作品になってしまっていることは否めないけど、美味しい「実」の部分が確かに存在するし一概に悪い作品とは言えない。我こそはというノベルゲージャンキーにこそおすすめしたい作品である。

 

f:id:gogo7ji:20220305200344p:plain

生存者は、二人だけ。

2033年8月1日、深海遊覧船SHEEPⅢは水深700mの海底へと沈み、乗客50名の命は失われた。生き残った7人の搭乗者は生存の道を模索するが、深海には彼らが予想だにしなかった脅威が潜んでいた。」

SHEEPⅢの悲劇は、もはや過ぎ去った過去の出来事である。しかしたった二人の生存者の片割れは、シミュレーション装置を使用して何度もこの悲劇を繰り返す。無意味であると知っていても、全員が助かったかもしれない一つの可能性を探し出すために足掻き続ける。

ということで、2033年のSHEEPⅢ内での出来事を何度も繰り返し体験する密室劇になってるね。登場人物も(基本的に)7人だけとコンパクトな設計で、その中でいろんな可能性を模索する作品になっている。

 

f:id:gogo7ji:20220305200054p:plain

主人公である「○○ ○○」は、正規の搭乗者でないため偽名を使用することになる。好きな名前を入れよう!(また、この名前入力は重要な分岐でもある。)

 

f:id:gogo7ji:20220305203554p:plain

ええと

 

f:id:gogo7ji:20220305203737p:plain

舞台となるSHEEPⅢの見取り図。科学的な考証をするシーンが楽しい作品であり、見取り図を見ながら作戦会議するシーンはワクワクしたなぁ。

 

f:id:gogo7ji:20220305205401p:plain

7人の搭乗員はみんな魅力的ではあるんだけど、どいつもこいつも隠し事だらけで、生命の危機だというのに全く協力的な姿勢を取ろうとしない。主人公も含めて。主人公も含めてだぞ!

7人それぞれに行動原理、行動目的というのが全く違うしそこが楽しいとこでもあり、話が進むごとにそれがだんだん判明してくるから理解はできるんだけど、協力しないと死ぬ状況で協力してくれない人が多すぎやしませんか。狂ってんのかこの船は。

それとこの作品の主人公、定期的に悔恨モードに突入して、罪の意識で「あああああ!」と叫びだすパートがちょくちょく挟まるのが良くない。「主人公は常人である」「常人は大きすぎる罪の意識には耐えられない」「罪を背負ってでも前に進む人間の意志」の三つを表現するには必要な描写なんだけどいかんせん多い。もっとコンパクトに狂ってくれ。

 

f:id:gogo7ji:20220305204011p:plain

僕の好きなキャラは天才少女の「西芳寺ときわ」かな。エキセントリックな言動が目立つキャラだけど、本質的には生命愛に溢れた博愛の善人。黎理と並んで有用な提言をしてくれる有能キャラでもある。

この作品の主人公は一応設定的には秀才なんだけど、ときわと黎理が強すぎて見せ場を食われてるんだよなぁ。ただその分自分の生命価値を最低に設定している自暴自棄人間という強みもあって、命懸けのミッションを捨て身でこなすかっこよさはあると思う。

 

f:id:gogo7ji:20220305204511p:plain

言動に共感しづらいキャラが多い本作の中で一番共感できたシーンがこれである。偏食気味の人なら多分わかると思う。

 

f:id:gogo7ji:20220305211619p:plain

ネアポリス護衛鉄球!

 

f:id:gogo7ji:20220305211647p:plain

本編クリア後はお楽しみのおまけシナリオ!どれも絶品だった。僕が好きなのはやっぱりときわさんシナリオかなぁ。いつも通りすぎて安心感がすごい。

 

f:id:gogo7ji:20220305211809p:plain

おまけシナリオでは一回に表示される分量が多いため本編と比べるとかなり読みやすい!僕が思うに本編は一行ずつしか表示されないというところで大分損してるね。テンポ感を考慮すると、本編もこの形式で表示したほうが良かったんじゃないかなぁ。

 

f:id:gogo7ji:20220305212109p:plain

極限的な状況で発生する人間ドラマ、罪を背負うこと、命の選別(トリアージ)、そしてSF、と難しいテーマを一作の中に綺麗に収めた作品。小さな箱庭ですね。根底にはあらゆる自然生命への愛が感じられ、人間もまた自然の一部として生まれそして死んでいくという。人として生きる中で当然に受ける「痛み」が確かに感じられる作品だった。

読みづらさは確かにあるけど、興味のある方は頑張って根気よく読んでみてもらいたい作品である。ノベルゲー慣れしてる方にならおすすめしたいかな。

 

990円、プレイ時間約30時間

プレイした日2020/05/13~2020/09/12

store-jp.nintendo.com