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遊んだゲームの感想なんかを書き残していこうかと思っています

「Dear My Abyss」紹介

絶望的な世界の摂理の中で少女たちはあまりにも無力で、しかしだからこそ語れる物語があった。

 

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「Dear My Abyss」とは、同人サークル「Berial」によって紡がれるホラーノベルADVである。
所謂「クトゥルフ神話」をベースとしており、用語がバシバシ登場。また登場人物の名前もクトゥルフ由来のものが多い。ただそんなにクトゥルフ詳しくない僕みたいな人でも楽しめるように配慮はされてる印象だし、ストーリー的にも「正体不明の何かが日常に浸食してくる」ような恐怖を煽る作品であるので、登場人物に共感が乗ってむしろ楽しめたまであった。

濃密な「百合」描写も特徴で、友人関係を越えてしまった感情の先に見えるドロドロの愛憎がそこにあった。どうしようもなく不条理で救いを見いだせない世界にあってこそ刹那的な輝きを見せる恋愛劇でもある。

文体は一つの詩のようにも感じられる落ち着いた雰囲気のもので、不安定な均衡の上にあっていつ壊れるかもわからない日常をどこか厭世的に描きつつも夢想の世界を幻想的に描写している。

グラフィックは「かまいたち」的なシルエット表現。読者の創造を膨らませつつもどこか無機的で乾いて人の温もりを感じさせない表現はホラーに相性ぴったりで、作品の雰囲気作りに一役買っている。

 

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ごく普通の女子高生「朝戸昴(あさとすばる)」のもとに、差出人不明の荷物が届く。中身は表題のない異臭を放つ本と、手紙が一通。

 

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「この本は燃やすことも切り刻むこともできない」

薄気味悪さを感じた昴は友人である「新倉魅栖華(にいくらみすか)」、「蓮田風美(はすたかざみ)」の二人と共にこの本を燃やすことにするが…。

 

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本を燃やしたその日を境に、昴は日常の中に奇妙な不可解さを感じ始める。「とある本」を探して街を蠢く不穏の者たち、転校生「九頭ルウ(くずるう)」、少しずつ歪んでいく人間関係、見えないがしかし確実に存在する悪意が昴の周囲に渦巻く。

 

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大きく分けて、お話は魅栖華編と昴編の二つ。

魅栖華編では、昴への友情を越えた慕情とすれ違い、そしてその破滅的な顛末が描かれる。

昴編では転校生ルウとの交流を軸として昴の内面的な弱さが描写され、無力感に苛まれ続ける現実と、幻想的で牧歌的な夢の中の世界とが互いを強調するように描かれる。そして昴は夢か現実か、この究極の二択を突き付けられることになる。

共通して登場人物はどこまでも無力で、現実の脅威に抗う術はなく、崩壊していく日常の中で生き足掻くことしかできない。この無力さからくる絶望感はクトゥルフ神話ベースの作品ならではだよなと思う。

 

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ハスターがなんとかしてくれるぜ!

 

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僕が好きなのはやっぱり昴編の夢の中の幻想描写かなぁ。穏やかな長い長い夢の中で安らぎを受け入れてしまうと、現実の醜さに耐えられなくなってしまうという救われなさがなんだか心にきてしまった。昴はめちゃくちゃ自己評価低くてどこまでも後ろ向きな考えをするから、「そんなことないよ!」って言ってあげたくなる反面、ある意味とても共感できるキャラクターでもあり…。一番の親友であるはずの魅栖華に対しても「お情けで付き合ってくれているだけ」という認識なのが本当に悲しい。そんな彼女だからこそ展開に説得力を感じたなぁ。

 

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クトゥルフを題材とした絶望的な世界設定はもちろん魅力的なんだけど、その中にあってむしろキャラクターの内面的世界の描写が光っている作品に思える。

切なさの残る百合を描いた一作。おすすめ。

 

990円、プレイ時間約10時間

プレイした日2018/12/27~2019/01/13

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