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遊んだゲームの感想なんかを書き残していこうかと思っています

無料アップデート!「藪の中」紹介

なぜ証言がくいちがう?

 

2022年7月7日、「レッツプレイ!オインクゲームズ」に待望の第二弾無料アップデートが到着!第6のゲーム「藪の中」が追加され、各種UIも改善された他、Steam版の配信も開始され、Switch版とのクロスプレイが実現。オインクワールドはまだまだ広がっていく!

ということで今回は新作の「藪の中」を紹介していく。既存の4作、及び第一弾の追加作品「この顔どの顔?」は以前紹介を書いたので良かったらそちらもどうぞ。

 

gogo7ji.hateblo.jp

 

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ということで「藪の中」を紹介していくぞ!

「藪の中」は芥川龍之介の同名小説を題材としたシンプルな推理&ブラフゲームだ。収録タイトルの中では簡単すぎず難しすぎずのちょうどよい手触り。しかしアナログゲーム全体で言うならかなり「カルめ」に位置するカジュアル寄りの作品である。

この町には、殺人事件も探偵も多すぎる!そんな町を舞台にプレイヤーは探偵となり、他の探偵を出し抜き一番の名探偵となることが目的だ。そんな町住みたくねえ!!

 

ルールは簡単!(ほんとに簡単。)

容疑者は三人、この中に犯人は必ずいる。限られた情報を頼りに、確率論、リスクヘッジ、人読み、そして直感を駆使して犯人を正義の庭に引きずり出すのだ!

要は三択クイズなんだけど、確率だけでは計りきれない人間の思惑、プレッシャーの押し付けやブラフ、心理戦情報戦が入り乱れて、シンプルな中に奥深い読み合いを実現させている。

ゲームに使うのは、2~8の数字が書かれた7枚の「人タイル」。参加人数によっては、加えて「X」の人タイルも混ざる。この「人タイル」の内、ランダムな3枚を容疑者として犯人当てゲームは始まる。

3人の容疑者の容疑者の内、2人の数字を確認して犯人を当てるのだ。

また、ゲームから除かれた無関係の「人タイル」の不在証明、所謂「アリバイ」を2人分だけ確認することができ、これも貴重な情報源の一つである。

そして殺害されたタイル、即ち被害者であるが、こいつの数字だけは誰も確認することができない。情報を墓場まで持っていけるのは死人の特権というわけである。この「不確定の一枚」がもたらす影響は案外大きい。

 

犯人の決定方法もこれまた簡単。「容疑者3人の内、一番数字の大きいタイルが犯人」である。シンプルすぎんだろ!

一番数字のデカい「8」がいたらだいたいこいつが犯人である。もうこいつ逮捕しろよ!一生シャバに出てくんな!

しかしながら、古今東西どのような事件を振り返ってみても、状況を引っ掻き回すトリックスターみたいなやつが往々にして存在するものである。このゲームにおいてそれは数字の「5」だ。こいつが容疑者に混ざっていると条件は大逆転、「容疑者3人の内、一番数字の小さいタイルが犯人」となる。

つまり未確認の容疑者が「5」であった場合プランが総崩れしてしまうわけだ。「5」は容疑者か?そうではないのか?「5」の居所の情報的価値は非常に高く、こいつのアリバイを掴めたら儲けモン。逆に「5」が被害者であったなら誰もこいつの所在を知る術はなく、最後まで「5」の影に怯え続けることになる。

ちなみに参加する探偵が多い場合に追加されるタイルである「X」さんは、「絶対に犯人にならない」という特性を持っている。めちゃくちゃ犯人っぽい名前なのにね!不思議だね!

「X」は容疑者として確認できた場合、単純に選択肢を減らせるのでちょっとだけありがたい存在だが、確率的に濃いはずの未確認容疑者がこいつだったりすると、かなり脱力させてくれる。お茶目さんである。

 

とまあこのゲームの基本は「犯人当て」なんだけど、実は本質はそこではない。

探偵の最大の敵、それは犯人ではない。同業者だ。

そう、このゲームはPvP。他プレイヤーこそが最大の敵対的存在なのだ。この作品は犯人当てゲームの皮を被っちゃいるが、その実、「他の探偵をハメるゲーム」なのである。

これは探偵としてのプライドを賭けた、(あとヒゲも賭けた、)探偵たちの仁義なき戦いなのだ。ヒゲは命より重い…!

 

まずこのゲームのより正確な勝利・終了条件を説明しよう。「犯人当てたら勝ち」はまあ正解っちゃ正解なんだけど、それだけではやや不足だ。

終了条件は正確には、「7ラウンド(7つの事件)終了、またはしくじりポイントが5以上の人が出る」であり、勝利条件は「しくじりポイントが一番少ない」である。

7回も連続して殺人事件が起こるような町に住めるか!と言いたくなるが問題はそこじゃない。いやそこも問題だけどさ!

一番重要なのは勝利条件。「ポイントが一番少ない人の勝ち」なのである。この「しくじりポイント」というのは、推理をミスった人に課せられるペナルティのようなもので、早い話がこのゲーム、加点方式ではなく減点方式なのだ。

減点方式であることが、「名探偵は推理を当てて当たり前、外したら今まで得てきた信頼が一瞬にして崩れる」という嫌な方向のリアルさの演出に貢献しており、一度沈むと逆転一位は絶望的。プレイヤーはこの嫌なプレッシャーと常に戦っていかねばならないのだ。

前述の要素から「逆転性がない」というのが今作の数少ない難点の一つではあるんだけど、このバランスであるからこその深い読み、選択の重み、そして他者を陥れたときの大きな快感が確かに存在するため、一概に悪い要素ではないかなと思った。

とはいえやはり一度沈んだ人が逆転一位になるのは難しいゲーム性なので、競技性を期待するよりはどちらかというと「死なないように立ち回る」「読みやブラフを通して気持ちよくなる」といった趣旨のゲームに思う。”勝つ”ゲームではなく”負けない”ゲーム、この発想の転換がこの作品を楽しむカギかもしれない。

 

運命を握る「しくじりポイント」、この分配は至って不公平で、欲と犯罪に塗れたこの町の縮図のようだ。

というのも、「しくじりポイント」はミスってる推理に追従した人が丸々受け持つことになるのだ。しかもダメージは人数分であり、例えば三人が同じ推理をしてミスった場合、最後に追従した人が3ダメージを丸々受け持つハメになる。

後攻の場合その選択はかなりリスキーであり、確率的に有利でも大事を取って、薄くてもダメージの少ないほうを選択したほうがいい場合もあるのだ。極端な話、無罪確定のXさんを選ぶのがリスクヘッジ的な考え方をすると一番丸い、なんてこともあり得る。あれ、探偵って何だっけ…?

逆に先攻の人は、後ろの人が自分の推理を支持して追従してくれさえすれば、外してもノーダメ―ジなのでかなり低リスク。もっと言えば「自分が選択した容疑者は、確定で次の番の人の未確認容疑者になる」という地味に超重要なルールがあるので、逆転が発生する容疑者「5」の情報を握りつぶすとかいった方法で後ろの人をハメることすら可能。というか、後ろの人が追従してくれそうな気配なら、わざと間違ったほうが相手のダメージが増えておいしい、なんて状況も起こり得る。あれ、探偵って何だっけ…??

一応「先手は情報が少ないがローリスク、後手は情報が多いがハイリスク」といった設計とも受け取れ、実際後攻の人は先攻の人の選択を参考にしつつ選択できるので嘘ではないんだけど、先攻はリスクが少ない分マック行くくらいの気軽さでブラフかましてくるため参考にしすぎるのも危ない。

そんなとき役立つのがみんな大好き確率論。容疑者2人とアリバイ持ち2人を確認できるので、当然だが未確認容疑者は確認してないタイルの内のどれかということになる。それぞれのタイルは確率にして「1/(全体数-4)」を持ってることになり、確率計算自体はかなり容易な作りになっている。ここから導き出した確率の濃い薄いにダメージの重さを係数として乗っければ一応は理論上の最適解を導き出せるというわけだ。

しかしながら、このゲームの敵は確率ではなく人間である。そもそもダメージの濃淡は先手側の行動から決定されているし、未確認容疑者にしたって一つ前の人が意図的に情報を握りつぶしてる場合もあるわけで、後手にお出しされた段階の情報はもはやフラットとは言えないのだ。大事な考え方なのは間違いないが、確率だけに頼っていると先手の人間の意のままに操られかねない。そんなゲームである。

そういった幾人もの思惑が絡み合った情報を紐解いて、地雷原の如きハイリスクの事件現場で、究極の選択を迫られる緊張感、そしてそれを乗り越えた達成感というのが後手にはある。不利を背負ってこそいるが、ある意味後手こそがこのゲームの神髄を見ることのできるある意味オイシイ立ち位置なのかもしれない。

逆に先手側は、自分の選択を後ろの人たちがどう受け止めるか、如何にして誤った方向へ誘導するか、といった方向で、後手側とは別の意味で考えることが多い。さながら名探偵と相対するフィクサーの如く、である。先手側も探偵のはずなのにね!不思議だね!

ということで先手も後手もしっかり楽しさが得られる作りにはなってるんだけど、点数レース的には明らかに先手側有利の作りになってるね。しかし、その歪みこそが独自の駆け引きを生んでいるわけだから、多分狙ってやってるんだろうなぁ。

 

とまあめっちゃ面白いゲームなんだけど、一番の難点は「順番にムラがある」という点。順番の重要性は先に述べた通り。

一応、一番ダメージ喰らってる人が一番前になるといった配慮はあるんだけど、それ以外の人の順番はランダムっぽく、何度も後手に回って点数レースで不利になる人が出たり、一位の人が割と前のほうの番になって蹴落とせなかったりとかいったことが頻繁に起こる。

この辺は公平性を重視してじゅんぐりにするか、完全に順位順(負けてる人から前になる)とか、あるいはそういった設定をプレイヤーが出来るようにするとかしてほしかったところだなぁ。というか元になってる紙版においてはプレイヤーが柔軟にその辺調整できたわけで、明確にアナログ版に水をあけられてるポイントだと個人的には思う。

その辺に関しては次のアプデなりで対応してくれると個人的には非常に嬉しいわけなんだけど、元々競技性を期待するようなゲームでもないので、現行ルールでも十分に心理戦の楽しさは味わえるだろうと思う。

特に楽しいのはやはり舌戦で、相手を説得して自分の読みに乗ってもらうとか、逆に相手の説得に乗るか降りるか、また最下位が死ぬとゲームが終わるため、確率的に薄くてもあえて最下位に追従する、あるいは見捨てるなどのダメージコントロールの交渉・駆け引きが生じる。

「推理」ゲームに見せかけて本質的には「政治」ゲームであるとも言える。相手の心理を理解して不利な読み合いを仕掛ける、あるいは自分の推理に追従してもらいリスクを消すといった相手との利害を加味した読み合いが本当に楽しい。一回ブラフに引っ掛けると次から信じてくれなくなるといった愉快なコミュニケーションも楽しめる。

そういう複雑な心理関係のゲームにあって選択はシンプルな三択という明快さもやはり見事。誰でも遊んだら一発で理解できるわかりやすいルールに、奥深い推理要素をプラスした秀逸なデザインは安心と信頼のオインクゲームズブランドならでは。

今回も非常に面白いゲームだった!僕の中では「スタータップス」並みにお気に入りの作品である。おすすめ!

 

2500円、プレイ時間約60時間

プレイした日2021/12/17~2022/07/10

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